- 肝障害とは
- 肝臓の働き
- 肝障害の種類について
- 初期症状はない?肝障害の症状
- 肝障害の原因
- 慢性肝炎の原因の大部分はウイルス感染?
- 増加傾向にある「脂肪肝」とは?
- 肝障害の検査と診断
- 肝硬変に進行させないための治療
- 自宅でできる脂肪肝の改善方法
- 慢性肝炎を予防するためにできること
肝障害とは
肝臓の機能に障害をきたしている状態を「肝障害」と呼びます。
肝臓は、沈黙の臓器と呼ばれる通り、症状が現れにくい臓器です。多くは、健康診断などで指摘されてその異常に気づきます。これはつまり、症状に気づいてから受診していては、病状がかなり進行している可能性が高いということを意味します。
肝障害の原因は、ウイルス感染、アルコールの飲み過ぎ、薬の副作用、免疫異常、肥満、過労など、多岐にわたります。いずれの場合にも、放置していると肝硬変や肝不全へと進展してしまいます。
健康診断で異常を指摘された方、倦怠感・黄疸・むくみなどの全身症状が続く方は、できるだけ早く当院にご相談ください。
肝臓の働き
肝臓は、腹部の右上に位置する臓器です。
大きく、以下の3つの働きを担っています。
代謝
栄養素を合成・分解し必要に応じて供給します。
解毒・排泄
老廃物・アルコール・有害物質などを分解・解毒し、体外へと排泄します。
胆汁分泌
脂肪を消化する際に必要となる胆汁をつくり、分泌します。
肝障害の種類について
肝障害は大きく、急性肝障害と、慢性肝障害に分けられます。
急性肝障害
- 急性ウイルス性肝炎
- 薬剤性肝機能障害
など
慢性肝障害
- 慢性ウイルス性肝炎(B型・C型)
- アルコール性肝炎
- 脂肪性肝炎・非アルコール性脂肪性肝炎
- 自己免疫性肝炎
など
初期症状はない?
肝障害の症状
肝障害は、初期は無症状のまま進行します。ある程度進行すると、以下のような症状が現れはじめます。
- 倦怠感
- 黄疸
- むくみ
- 食欲不振
- 吐き気
- 腹水
肝障害の原因
ウイルス感染
肝炎の原因となる肝炎ウイルスにはA型・B型・C型・E型があります。
ただ、日本国内では圧倒的にB型・C型肝炎ウイルスによる感染が多くなります。
B型肝炎
感染している人の血液や体液を介して感染します。
感染が一時的なものとなる「一過性感染」の場合、性行為、ピアスの穴あけ、入れ墨の器具などが感染経路となります。成人であれば免疫が働き、通常はウイルスが自然に排出されます。
一方の感染が持続する「キャリア」の場合、妊娠中・出産時の母子感染や、幼少期の父子感染が主な感染経路となります。ただ、近年は母子感染の予防がしっかりと行われているため、そのリスクは非常に低くなっています。
C型肝炎
主に感染している人からの血液を介して感染します。
現在の日本国内では、医療環境の改善によって、新規感染はほとんど起こっていません。ただ、ピアスの穴開け、針刺し事故による感染は未だ起こっています。
なお、C型肝炎ウイルスは比較的感染力が低く、妊娠中・出産時の母子感染、性行為による感染はごく稀です。
脂肪肝
中性脂肪が肝臓に多く蓄積した「脂肪肝」は、大きく以下の2つに分類されます。
アルコール性脂肪肝
過剰・長期の飲酒によって肝臓に中性脂肪が蓄積して発症するものです。
さらに飲酒を続けると、肝炎や肝硬変などの肝臓疾患が進行します。
NAFLD(非アルコール性
脂肪性肝疾患)
アルコールの飲み過ぎ以外を原因として起こる脂肪肝です。
肥満、糖尿病、高血圧症、脂質異常症、ストレス、生活リズムの乱れなどを主な原因とします。また、少量の飲酒によって起こる脂肪肝も、NAFLDに分類されます。
NAFLDのうち10~20%は、NASH(非アルコール性脂肪肝炎)へと進行します。さらにNASHのうち約半数は進行性であり、10年後には20~30%が、肝硬変・肝がんの発症に至ります。
薬物
抗生物質、抗真菌薬、解熱鎮痛剤、精神神経系薬、抗甲状腺薬、抗がん剤などの薬剤の副作用として、肝障害が起こることがあります。
風邪薬、漢方薬、サプリメント、健康食品などが原因になるケースも見られます。
自己免疫疾患
免疫の異常によって起こる肝障害もあります。ウイルス感染、薬剤、妊娠・出産などが影響しているのではという指摘はありますが、はっきりしたことは分かっていません。
自己免疫疾患として起こる自己免疫性肝炎は、難病の指定を受けています。50~60代の女性で発症が目立ちます。
甲状腺疾患
甲状腺機能亢進症、甲状腺機能低下症などの甲状腺疾患が原因となることもあります。
また、その治療で使用される抗甲状腺薬の副作用も、肝障害を引き起こす原因となります。
慢性肝炎の原因の大部分は
ウイルス感染?
肝臓での炎症が6カ月以上続いていると、「慢性肝炎」と診断されます。
多くは無症状ですが、放置していると将来的な肝硬変・肝がんのリスクが高まります。
最大の原因は、B型・C型肝炎ウイルスの感染です(B型・C型肝炎)。またそのほか、飲酒、肥満、糖尿病、高血圧症、脂質異常症、ストレス、生活習慣の乱れなどが原因になることもあります(アルコール性脂肪肝・NAFLD)。
増加傾向にある
「脂肪肝」とは?
肝臓に中性脂肪が蓄積し、肝臓全体の30%以上を占める状態を「脂肪肝」と呼びます。
過剰・長期の飲酒を原因とする「アルコール性脂肪肝」と、肥満、糖尿病、高血圧症、脂質異常症、ストレス、生活リズムの乱れなどを原因とする「NAFLD(非アルコール性脂肪性肝疾患)」に大別されます。いずれも、生活習慣の乱れを原因とすることから、生活習慣病の1つと言えます。
放置していると、肝炎や肝硬変、肝がん、さらには動脈硬化及び心筋梗塞・脳卒中など、重い病気のリスクが高くなります。
肝障害の検査と診断
問診
自覚症状、生活習慣(特に飲酒の状況)などについて、お話を伺います。
血液検査
血液検査で、以下の項目について調べます。ウイルス性肝炎が疑われる場合には、抗体検査も実施します。
項目 | 基準値 | 疑われる病気 |
---|---|---|
AST(GOT) | 7~38 IU/L | 高値:急性肝炎、劇症肝炎、慢性肝炎、アルコール性肝炎、脂肪肝、肝硬変、肝がんなど |
ALT(GPT) | 4~44 IU/L | |
γ-GTP | 男性:80 IU/L以下 女性:30 IU/L以下 |
高値:急性肝炎、慢性肝炎、肝硬変、肝がん、アルコール性肝障害、非アルコール性脂肪性肝炎、薬剤性肝障害、胆道系疾患など |
※基準値は検査機関によって異なることがあります。
(金井正光 編: 臨床検査法提要改訂第32版, 東京, 金原出版, 2005)
超音波検査
超音波検査では、中性脂肪の沈着の程度、腫瘤の有無、肝障害の進行の程度などが分かります。
肝硬変に
進行させないための治療
ウイルス性肝炎の治療
B型肝炎
一過性感染の場合には、自然排出を待ちます。また必要に応じて、水分・栄養補給を行います。
キャリアの場合には、ウイルスの増殖を抑制する抗ウイルス薬(内服・注射)を使用します。
C型肝炎
お薬によるインターフェロンフリー治療が基本です。初回治療の9割以上で、体内からのウイルスの排除が認められます。副作用もほとんどありません。
奈良県のB型・C型
ウイルス肝炎治療
医療費助成制度
奈良県では、肝炎インターフェロン治療、肝炎インターフェロンフリー治療、核酸アナログ製剤治療の医療費の助成を行っております。
脂肪肝・脂肪性肝炎の治療
アルコール性脂肪肝
禁酒・節酒は必須であり、治療の柱となります。
肝臓が腫れているようなケースでも、禁酒による改善が期待できます。
NAFLD(非アルコール性
脂肪性肝疾患)・NASH
(非アルコール性脂肪肝炎)
栄養バランスの良い食事を摂りながら、脂質・糖質の抑制を意識した食事療法を行います。
また、適度な有酸素運動、十分な睡眠、規則正しい生活リズムも大切なポイントです。肥満の方は、食事療法と運動療法を組み合わせて減量に取り組みましょう。
薬剤性肝障害の治療
原因となっているお薬の使用を中止すれば、速やかに改善します。受診の際には、お薬手帳、またはお薬そのものをお持ちください。
なお、自己判断での服用中止は、その治療中の病気・症状を悪化させる恐れがあります。処方した先生と連携を取り、お薬の変更や減量・中止を慎重に判断します。
自己免疫性肝炎の治療
免疫抑制剤(副腎皮質ステロイド薬)の内服薬を処方します。
急に内服を止めると再燃するため、推移を見ながら、徐々に量を減らしていきます。
特に中高年の女性は、副作用による骨粗しょう症のリスクが高くなるため、定期的に骨密度検査を行い、必要に応じて治療を行います。
自宅でできる脂肪肝の
改善方法
ご紹介した治療の中にもあったように、脂肪肝の治療では、禁酒・節酒、食事療法、運動療法などの生活習慣の改善が中心となります。特効薬は存在しません。
栄養バランスを意識した
食事を摂る
栄養バランスを考慮して食事を摂ることが重要です。厳密な栄養計算が難しいという場合には、主食1品、主菜1品、副菜2品の形をとり、以下のような点に気をつけてください。
- 主食、主菜を2品以上摂ることは控えましょう。エネルギー過多になります。
- 主菜、副菜など、家族全員分を1皿に盛るよりも、1人分ずつに分けて食卓に並べる方が、食べる量を抑えられます。
- できるだけ自炊します。外食をする場合には、定食セットを選ぶようにしましょう。
- できるだけ栄養成分表示を活用するようにしましょう。
野菜・海藻・きのこ類を
積極的に摂取する
野菜の摂取量は、1日350gを目指し、海藻やきのこ類も、意識して摂取しましょう。
特に食物繊維は、糖質や脂質の吸収を遅らせてくれます。食事の最初の方で食べると、より効果的です。
禁酒・節酒は必須
過度・長期のアルコールの飲み過ぎは、アルコール性脂肪肝の原因となります。また少量であっても、NAFLD(非アルコール性脂肪性肝疾患)の原因になることがあります。
少なくとも節酒を、できれば禁酒をしましょう。
間食・ジュースを控える
3食に気をつけても、間食を摂ったり、甘いジュースを飲んだりすると、エネルギー過多になりがちです。
また、注意が必要なのが果物です。健康に良い面もありますが、果糖の摂り過ぎは、脂肪肝や肥満の原因となります。
適度な有酸素運動を
習慣化する
適度な有酸素運動を習慣づけることが大切です。
おすすめなのはウォーキングです。食事療法を行った上で、男性であれば1日9,000歩、女性であれば1日8,500歩を目指しましょう。
ただ、これまでほとんど運動をしていなかった人が、急に9,000歩、8,500歩を歩くと、ケガなどの原因となったり、嫌気が差して続かない原因になります。患者様の年齢、お身体の状態に合わせた運動療法・運動量を提案させていただきます。
慢性肝炎を予防するために
できること
肝炎ウイルスの感染予防
B型肝炎ウイルスは、血液や体液を介して感染します。歯ブラシ・ひげ剃り、カミソリの共用を避け、性行為の際には必ずコンドームを着用しましょう。
C型肝炎ウイルスは、B型肝炎ウイルスと比べると感染力が弱く、性行為での感染リスクは低くなります。
アルコール性脂肪肝・
NAFLD(非アルコール性
脂肪性肝疾患)の予防
栄養バランスの良い食事を基本とし、脂質・糖質の摂り過ぎ、飲み過ぎを避けましょう。不足しがちなビタミン、ミネラルは積極的に摂りましょう。
また肥満の方は、運動療法と組み合わせて減量に取り組んでいきましょう。そのほか、添加物、加工食品、インスタント食品なども、できるだけ避けるのが理想です。
十分な睡眠と規則正しい生活リズムの維持も大切です。